労働基準法の見直しが議論されるなかで、「有給の取得義務が、年5日から付与日数の半分に広がる」という説明を見かけることがあります。20日付与される人なら10日を取らせる義務になる、という説明です。
この記事では、その説明を労働政策審議会の資料と閣議決定の文書で確認します。先に答えを書くと、2026年10月7日時点で、取得義務の日数を付与日数の50%に増やす案は、これらの資料には見当たりません。
結論
- 取得義務(年5日)を付与日数の50%に広げる案は、労働政策審議会 労働条件分科会の資料と規制改革実施計画には見当たらない
- 「付与日数の50%」が出てくるのは、時間単位年休の上限(いまは年5日以内)の見直しの検討例
- 取得義務の日数について論点になっているのは、育児休業から復帰した人や退職する人など、期間が短い人の扱い
- いずれも2026年10月7日時点で未決。いまのルールは変わっていない
2つの「5日」を分けて考える
年次有給休暇には、「5日」という数字が出てくる制度が2つあります。混同されやすいのはここです。
| 取得義務(時季指定義務) | 時間単位年休の上限 | |
|---|---|---|
| 何の5日か | 使用者が取得させなければならない日数 | 時間単位で取ることができる日数の上限 |
| 条文 | 労働基準法 第39条第7項 | 労働基準法 第39条第4項第2号 |
| 前提 | 付与日数が10労働日以上の人 | 労使協定で定めた場合だけ |
| 見直しの議論で出ている数字 | 増やす数字は出ていない。期間が短い人の調整が論点 | 例えば付与日数の50%程度への緩和が検討例 |
「付与日数の50%」はどちらの5日の話か
2026年10月時点取得義務
労働基準法 第39条第7項
×資料に見当たらない
論点になっているのは
育休から復帰した人・退職する人など、期間が短い人の日数の調整
時間単位年休の上限
労働基準法 第39条第4項第2号
規制改革実施計画の検討例。見直すかどうかも含めて未決
年5日への算入
いまの条文(第39条第8項)では、時間単位の取得は数えない
時間単位年休の上限は、条文では次のように書かれています。
時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(五日以内に限る。)
時間単位年休は、書面による労使協定を結んだ場合に限って使える制度です(同項)。
「付与日数の50%」の出どころ
「50%」という数字は、2025年6月13日に閣議決定された規制改革実施計画にあります。
時間単位年休の上限を、例えば年次有給休暇の付与日数の50%程度に緩和することなどの見直しの要否も含め、労働政策審議会において検討し、結論を得る。
主語は時間単位年休の上限です。仮に50%になれば、20日付与される人は時間単位で取れる上限が10日分になる、という計算です。10日を取らせる義務ができる、という意味ではありません。
また「例えば」とあるとおり、50%は検討の例として挙げられた数字で、見直すかどうか自体も検討の対象です。結論の時期は令和7年度とされていましたが、2026年9月16日の労働条件分科会(第211回)でも、上限日数(5日)を「どのように考えるか」という論点のままです。
時間単位年休の見直しの経緯は、時間単位年休の記事で整理しています。
取得義務の日数(5日)について出ている意見
取得義務の日数そのものについては、2025年1月の厚生労働省の労働基準関係法制研究会の報告書が、次のように整理しています。
使用者の時季指定義務の日数について、現在の5日間から直ちに変更すべき必要性があるとは思われない。
労働条件分科会で整理された労使の意見は、次のとおりです。
- 使用者側: 5日の時季指定義務は必要だが、義務日数を増やすことが必要とはいえない。現状の5日は中小企業にとっても現実的な水準
- 労働者側: 年5日を取得させられていない企業があることから、まずは取得させる取組が不可欠。期間が短い人について、日数を安易に減らすべきではない
労使どちらの意見としても、5日を付与日数の50%に増やす提案は、整理された意見の中に見当たりません。
論点になっているのは「期間が短い人」
取得義務の日数で論点として示されているのは、次の点です(第206回・第211回)。
- 育児休業からの復帰者や退職するなど、年次有給休暇を与えることができる期間の短い労働者についても5日となっている日数を、どのように考えるか
使用者側からは、復帰後や退職までの勤務できる日数に応じて5日を按分する案が、労働者側からは安易に減らすべきではないという意見が出ています。つまり議論の向きは、一部の人について日数を調整するかどうかです。
いまの扱いは、付与期間の途中で育児休業から復帰した人も原則として5日、例外は残りの労働日が時季指定すべき残りの日数より少なく、5日を取得させることが不可能な場合です(厚生労働省「改正労働基準法に関するQ&A」3-6)。復帰・休職・退職の場面ごとの扱いは、育休明け・退職予定の人の年5日の記事で整理しています。
取得率の目標とも別の話
もう1つ、数字が混ざりやすいものに取得率の政府目標(70%)があります。厚生労働省の資料によると、令和6年の年次有給休暇の取得率は66.9%で、昭和59年以降で過去最高でしたが、70%には届いていません。
取得率は全体で付与日数のどれだけが取得されたかを示す統計で、1人ひとりに何日取らせるかを定めた取得義務とは別のものです。
確認する点
制度が変わったという説明を見かけたときは、次の点を確認する形になります。
- どの制度の話か(取得義務か、時間単位年休か、取得率の目標か)
- 決まったことか、検討中の論点か(労働政策審議会の資料で「どのように考えるか」とあれば、論点の段階)
- 一次資料(厚生労働省の労働条件分科会の資料、e-Gov の条文)
いまの年5日の集計では、日単位・半日単位の取得を数え、時間単位の取得は数えません。 この扱いは、上限の見直しが議論されている間も変わっていません。
年5日の状況を確認する
年5日の取得状況を1人ずつ確認するための資料を用意しています。日単位・半日単位・時間単位の区別を含めた確認項目をまとめたものです。
付与日数そのものを確認したい場合は、入社日と週の所定労働日数を入れるだけで計算できるツールもあります。
ヤスモは、付与分ごとの取得状況を従業員ごとに管理し、年5日の達成状況を取得ペースから区分して表示するツールです。
この記事で確認した条文・資料
- 労働基準法:第39条第4項・第7項
- 厚生労働省「改正労働基準法に関するQ&A」(平成31年4月)(PDF):3-6
- 労働政策審議会 労働条件分科会 第206回(2025年12月24日)資料No.2-1
- 労働政策審議会 労働条件分科会 第211回(2026年9月16日)資料:資料No.2-2(論点)、資料No.2-3(規制改革実施計画・労働基準関係法制研究会報告書の抜粋、これまでの議論の主な意見の整理、年次有給休暇の取得率の推移)
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本サービスは、労働基準法39条の年次有給休暇に関する「事実の可視化」と、取得ペース分析・取得候補日の提示・通知等による「判断材料としての情報提示」を目的としています。これらは利用者および従業員の判断材料を提供するものに留まり、特定の取得行為を指示・指導・助言するものではありません。本サービスは、利用者が登録・選択した情報に基づく年次有給休暇の管理補助ツールです。取得候補日は参考情報であり、取得日を決定するものではありません。取得日の決定その他の個別の労務判断、及び帳票を法令に基づく記録として使用する場合の内容確認は、利用者が行ってください。具体的な労務対応は、社内の労務担当または社会保険労務士にご相談ください。
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