更新日 2026年9月7日

年5日取得義務の摘発・指導の実態を一次情報で調べました

年5日の有給取得義務について、労働基準監督年報・送検公表リスト・公表裁判例の一次情報を確認し、実際にどこで指摘されているのかを整理します。

年5日の有給取得義務については、「違反するとすぐ罰金なのか」「実際に裁判や送検はあるのか」という疑問が出やすいところです。

この記事では、2026年8月25日時点で確認できる一次情報に絞り、労働基準監督年報、送検公表リスト、公表裁判例を見ました。確認できなかったものは「未確認」として分けています。

結論

労働基準監督年報では、労働基準法第39条全体の違反として毎年多くの是正指導が計上されています。ただし、この統計は第39条全体であり、年5日の取得義務を定める第39条第7項だけに分解された件数ではありません。

一方で、年5日の有給取得義務そのものを正面から扱った公表裁判例は、裁判所の裁判例検索では確認できませんでした。

送検公表リストは、現在掲出されている全国取りまとめの範囲を確認しましたが、同リスト内で「労働基準法第39条」や「年次有給休暇」に該当する公表事案は確認できませんでした。過去分を網羅する公式一覧は確認できず、過去の送検事案の全体像は未確認です。

上ほど件数が多く、下ほど公開情報では見えにくくなります

何を調べたか

調査日は2026年8月25日です。見た資料は次の一次情報です。

条文は、労働基準法第39条第7項が年5日の時季指定による取得を定め、同法第120条が同項違反を30万円以下の罰金の対象にしています。労働基準法施行規則第24条の7は、年次有給休暇管理簿の作成・保存を定めています。管理簿については「義務があること」と「第120条の罰則対象であること」を混同しないよう分けて確認しました。

監督指導の統計

労働基準監督年報の第1表には、定期監督等で把握された法違反状況が条文別に掲載されています。ここで見えるのは「労働基準法第39条」全体の違反件数です。

年報対象年労働基準法第39条違反件数
平成31年・令和元年2019年246件
令和2年2020年3,486件
令和3年2021年9,783件
令和4年2022年14,264件
令和5年2023年12,965件
令和6年2024年12,648件
令和7年 速報値2025年12,962件

上記の件数は、いずれも各年報の第1表(違反状況)にある労働基準法第39条の欄から確認しました。

2019年4月の義務化以降に件数が増え、近年は1万件台で推移しています

年5日の取得義務が始まったのは2019年4月です。上の表では、それ以降に件数が大きく増え、近年は1万件台で推移しています。ただしこれは第39条全体の件数なので、増加分がすべて年5日の取得義務によるものとは限りません。

この数字から分かるのは、年次有給休暇を含む第39条違反が監督指導の場面で継続的に確認されていることです。

一方で、第39条には年5日の取得義務以外にも、年次有給休暇の付与、請求する時季での付与、賃金支払いなど複数の規定があります。したがって、この表をそのまま「年5日の取得義務違反の件数」と読むことはできません。

送検事案

厚生労働省の「労働基準関係法令違反に係る公表事案」は、各都道府県労働局が公表したものを一定期間で取りまとめるリストです。2026年8月25日時点で掲出されていたリストは、令和7年7月1日から令和8年6月30日までの公表分でした。

このリストは本文を検索できる形式で、他の条文(たとえば労働基準法第32条の労働時間)では公表事案が見つかります。そのうえで「労働基準法第39条」「年次有給休暇」「有給」で検索した範囲では、年5日の取得義務や年次有給休暇に関する公表事案は確認できませんでした。

ただし、この結果は「送検事案が存在しない」という意味ではありません。公式ページで確認できる全国取りまとめは掲載期間が限られており、過去分を網羅する公式一覧は確認できませんでした。過去の個別送検事案の全体像は未確認です。

公表裁判例

監督指導では継続的に指摘されている一方、裁判例として公表されているものはどうでしょうか。裁判所の裁判例検索で、次の条件を確認しました。

検索語件数
年次有給休暇 時季指定389件
労働基準法第39条第7項0件
年5日 年次有給休暇405件
使用者による時季指定7件
query1=年5日、query2=年次有給休暇0件

広い検索語では、年次有給休暇や時季指定に関する裁判例が出ます。しかし、「労働基準法第39条第7項」や「年5日」と「年次有給休暇」を組み合わせた検索では、年5日の取得義務そのものを正面から扱う公表裁判例は確認できませんでした。

なお、年次有給休暇一般に関する最高裁判例としては、たとえば次の公表判決があります。

裁判例位置づけ
最高裁第一小法廷 平成25年6月6日 平成23(受)2183無効な解雇後の年次有給休暇権の成立要件が問題になった事案
最高裁第二小法廷 昭和62年7月10日 昭和59(オ)618勤務予定日の年次休暇の時季指定と時季変更権が問題になった事案
最高裁第三小法廷 平成4年6月23日 平成元年(オ)399長期連続の年次有給休暇の時季指定と時季変更権が問題になった事案
最高裁第二小法廷 平成5年6月25日 平成4(オ)1078年次有給休暇取得と皆勤手当控除が問題になった事案

これらは年次有給休暇の考え方を理解するうえで関係しますが、2019年4月からの年5日の取得義務違反そのものを扱った裁判例ではありません。

労働審判・係属中の事件

労働審判手続は、裁判所の案内でも「訴訟手続とは異なり非公開の手続」と説明されています。そのため、年5日の有給取得義務をめぐる労働審判があるかどうかは、公開情報から体系的に確認できません。

係属中の訴訟についても、公開判決として掲載される前の段階では、一般に検索で全体像を確認できません。したがって、「公表裁判例が確認できない」ことと「紛争がない」ことは別です。

この結果をどう読むか

今回の一次情報からは、年5日の有給取得義務について、次のように整理できます。

  • 監督指導の統計では、労働基準法第39条全体の違反が毎年一定数確認されている
  • 現在掲出されている全国の送検公表リストでは、年次有給休暇関連の事案は確認できない
  • 公表裁判例では、年5日の取得義務そのものを正面から扱った事案は確認できない
  • 労働審判や係属中の事件は、公開情報だけでは体系的に確認できない

つまり、公開裁判例や現在の送検公表リストだけを見ると目立ちにくい一方、監督指導の統計では第39条違反が継続的に出ています。年5日の有給取得義務を考えるときは、「裁判例が少ないから問題にならない」と読むより、監督指導の中で確認される管理上の論点として読む方が、一次情報に沿った見方です。

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