年5日の取得義務が始まってから、年次有給休暇管理簿の作成が必要になりました。ただ「何を書けばよいのか」「いつまで保存するのか」は、条文を開かないと分かりにくい部分です。
この記事では、根拠となる条文を実際に引用しながら、書く項目・保存期間・罰則の有無を整理します。記入例と、実務で質問の多い点も後半にまとめました。
なお、社内では「有休管理簿」「年休管理簿」「有給休暇管理簿」と呼ばれることもありますが、条文上の名称は年次有給休暇管理簿です。この記事では条文の名称に合わせています。
管理簿の根拠は「法律」ではなく「省令」
年次有給休暇管理簿を定めているのは、労働基準法そのものではなく、労働基準法施行規則の第24条の7です。
使用者は、法第三十九条第五項から第七項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第五十五条の二及び第五十六条第三項において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後五年間保存しなければならない。
ここに、この記事で扱う内容がほぼ全部入っています。順に見ていきます。
書く項目は3つだけ
条文が挙げているのは次の3つです。労働者ごとに明らかにする、という点が条件になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 時季 | いつ取得したか |
| 日数 | 何日取得したか |
| 基準日 | 付与の起算日。第一基準日・第二基準日を含む |
「第二基準日」は、前倒しで付与した場合などに登場します。入社日より前に付与したり、途中で一斉付与に切り替えたりすると、1人の中に基準日が2つ並ぶことがあり、その両方を書くことになります。
様式は決まっていない
条文は「書類」としか言っておらず、決まった様式はありません。さらに施行規則の第55条の2は、次のように定めています。
使用者は、年次有給休暇管理簿、第五十三条による労働者名簿又は第五十五条による賃金台帳をあわせて調製することができる。
つまり、労働者名簿や賃金台帳と一体で作ってもかまいません。Excel でも、システムの出力でも、3項目が労働者ごとに分かる形になっていれば形式は問われません。
記入例
様式が決まっていないぶん、実物を見たほうが早い部分です。条文の3項目(時季・日数・基準日)を労働者ごとに並べると、最小の形は次のようになります。
基準日が1つの従業員
入社日を基準にしている、いちばん多い形です。
| 氏名 | 基準日 | 時季(取得日) | 日数 |
|---|---|---|---|
| 山田 太郎 | 2026-04-01 | 2026-05-07 | 1.0 |
| 山田 太郎 | 2026-04-01 | 2026-07-20〜2026-07-22 | 3.0 |
| 山田 太郎 | 2026-04-01 | 2026-11-04(半日) | 0.5 |
同じ人の行を基準日ごとにまとめれば、その基準日から1年の間に何日取得したかがそのまま読み取れます。上の例では4.5日です。
基準日が2つある従業員
一斉付与に切り替えた年や、入社日より前倒しで付与した年には、1人の中に基準日が2つ並びます。このときは両方を書きます(条文が「第一基準日及び第二基準日を含む」と書いているのはこの場面です)。
| 氏名 | 基準日 | 時季(取得日) | 日数 |
|---|---|---|---|
| 鈴木 花子 | 第一基準日 2026-01-01 | 2026-02-13 | 1.0 |
| 鈴木 花子 | 第一基準日 2026-01-01 | 2026-03-09 | 1.0 |
| 鈴木 花子 | 第二基準日 2026-04-01 | 2026-06-15〜2026-06-16 | 2.0 |
第一基準日と第二基準日をまたぐ期間の扱いは、年5日の期限の数え方に直結します。ここは管理簿の書き方というより、付与ルールそのものの話になります。
書かなくてよいもの
条文が求めているのは3項目だけです。取得理由・申請日・承認者・残日数は、管理簿としては必須ではありません。社内の運用で必要なら足してもかまいませんが、「足りない項目がある」と心配する対象ではありません。
保存期間は「3年」ではなく「与えた期間中+満了後3年」
ここが誤解されやすい点です。
条文の本則は「当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後五年間」ですが、施行規則の附則第71条によって、次のように読み替えられています。
第二十四条の七…の規定の適用については、当分の間、これらの規定中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
したがって、現在の実務は 「有給を与えた期間中」+「その期間が満了してから3年間」 です。
「作成から3年」ではありません。 起点は「有給を与えた期間の満了」なので、たとえば基準日が4月1日の年度分であれば、翌年3月31日が満了日となり、そこから3年間ということになります。「作成日から3年」と読むと、保存期間が実際より短くなります。
保存期間の起点は「作成日」ではない
例有給を与えた期間(1年)
作成日から3年(誤解)
満了後3年間(正しい)
当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後
当分の間、5年間 → 3年間
⚠️ 「当分の間」という書き方なので、読み替えが解除されれば5年に戻ります。ここは今後の改正を追う必要がある部分です。
罰則はどうなっているか
「義務がある」ことと「罰則がある」ことは別です。ここは条文で分けて確認します。
労働基準法の第120条は、30万円以下の罰金の対象になる違反を列挙しています。その第1号に挙げられているのは、次のような条文です。
第十四条、第十五条第一項若しくは第三項…第三十九条第七項…又は第百六条から第百九条までの規定に違反した者
| 何をしなかったか | 根拠 | 第120条の列挙に含まれるか |
|---|---|---|
| 年5日を取得させなかった(使用者の時季指定義務) | 労働基準法 第39条第7項 | 含まれる |
| 管理簿を作成・保存しなかった | 労働基準法施行規則 第24条の7 | 含まれていない |
年5日の時季指定義務(第39条第7項)は第120条に明記されていますが、管理簿の作成・保存を定めた施行規則第24条の7は、第120条の列挙にありません。
つまり、管理簿を作っていないこと自体に直接の罰金規定が置かれているわけではありません。ただし作成・保存の義務そのものは省令で定められており、監督署の調査で確認される書類です。「罰則がないから作らなくてよい」という話にはなりません。
つまずきやすいのは「基準日が人ごとに違う」こと
管理簿そのものは3項目の書類ですが、実務でつまずくのは書式ではなく、基準日が従業員ごとに散らばることです。
入社日を基準にしている会社では、基準日は入社日ごとに異なります。管理簿は労働者ごとに基準日を明らかにする書類なので、人数が増えるほど、1人ずつ違う起算日で1年間を数えることになります。年5日の期限も同じ起算日から数えるため、期限も人ごとに違う日付になります。
一斉付与に切り替えている場合も、初回だけは入社日から計算するため、第一基準日と第二基準日の両方を持つ従業員が出てきます。この2つを取り違えると、管理簿の基準日と年5日の期限がずれます。
よくある質問
パート・アルバイトの分も必要ですか
必要です。条文は「有給休暇を与えたときは……労働者ごとに」と書いているので、有給を与えた相手であれば雇用形態は問いません。所定労働日数が少なく比例付与になる人も対象です。
ただし、年5日の取得義務のほうは対象範囲が違います。使用者の時季指定義務を定めた労働基準法第39条第7項は「年次有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」を対象にしているので、付与日数が10日に満たない人は年5日の対象外です。管理簿は作るが年5日の対象ではない、という人が出てきます。
いつ作るものですか
条文は「有給休暇を与えたときは……作成し」という書き方なので、付与のタイミングで作り始め、取得のつど時季と日数を書き足していく形になります。年度末にまとめて作る書類とは書かれていません。
退職した人の分は捨ててよいですか
保存期間の起点は「有給を与えた期間の満了」で、退職を起点にする定めはありません。したがって、退職しても保存期間が終わるまでは保存が必要です。
半日取得や時間単位の分はどう書きますか
条文が求めているのは「時季」と「日数」だけなので、半日を0.5日と書くか、時間で書くかは形式の問題です。年5日の集計と食い違わないように、社内で数え方をそろえておく必要があります。
なお、時間単位で有給を取得できるようにするには労使協定が必要で、年5日以内という上限があります(労働基準法第39条第4項)。時間単位で取った分を年5日の取得義務の日数にどう扱うかは、また別のルールになります。
作っていなかった場合、罰則はありますか
管理簿の作成・保存を定めた施行規則第24条の7は、罰則を列挙した労働基準法第120条に含まれていません。ただし義務があることと罰則があることは別で、作成・保存の義務そのものは省令で定められています。詳しくは前の「罰則はどうなっているか」を参照してください。
労働者名簿や賃金台帳と1つのファイルにしてよいですか
かまいません。施行規則第55条の2が、あわせて調製できると明記しています。
無料のExcelテンプレートを配布しています
管理簿の3項目(時季・日数・基準日)を満たす形の Excel テンプレートを無料で配布しています。付与記録・取得記録・年5日の進捗まで含めた構成です。
テンプレートの年5日進捗シート
例| A | B | C | D | E | F | G | H | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 年5日 進捗 | |||||||
| 2 | 従業員マスタに入力した方について、直近の付与日を基準に年5日の進捗を表示します。 | |||||||
| 3 | ||||||||
| 4 | 従業員番号 | 氏名 | 基準日(直近の付与日) | 取得期限 | 期間内の取得日数 | 残り必要日数 | 期限までの日数 | 判定 |
| 5 | E-001 | 山田 太郎 | 2026/04/01 | 2027/03/31 | 5.0 | 0.0 | 210 | 達成 |
| 6 | E-002 | 佐藤 花子 | 2026/07/01 | 2027/06/30 | 3.0 | 2.0 | 301 | 未達成 |
| 7 | E-003 | 鈴木 一郎 | 2025/04/01 | 2026/03/31 | 4.0 | 1.0 | -155 | 期限超過 |
※「期限までの日数」は 2026/09/02 時点で計算した例です。実際のシートでは開いた日を基準に再計算されます。
「Excel で扱えないこと」も同じファイルに書いてあります。人数が増えたときにどこで手が止まるのかを、先に把握しておく用途にも使えます。
ヤスモでできること
ヤスモは、年5日の取得義務の管理に特化したツールです。
- 年次有給休暇管理簿を、時季・日数・基準日を労働者ごとに明らかにした形で出力できます
- 第一基準日・第二基準日の両方を持つ従業員も、基準日ごとに分けて記録します
- 年5日の期限を従業員ごとに管理し、期限までの残り日数で並べ替えられます
- 付与日・付与日数は、入社日基準/一斉付与の設定にしたがって計算します
この記事で確認した条文
ご利用上の注意
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